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包括的NDAと個別NDAはどう使い分けるべきか|M&Aアドバイザー実務での判断基準を解説

この記事は、M&Aアドバイザー、仲介会社、FA、FASなど、NDAを実務で設計・運用する側に向けた記事です。

包括的NDAと個別NDAの違いは、教科書的には整理できます。

ただ、実務で本当に重要なのは、

どちらが理屈としてきれいかではなく、
案件が回るか、クライアントが嫌がらないか、後で揉めないかです。

その意味で、M&A実務ではまず包括的NDAが中心になります。

案件探索の初期段階で毎回個別NDAを締結していると、紹介・検討・打診のテンポが落ちるからです。しかも、その後にM&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書を締結すれば、その契約書の中にも通常は秘密保持条項が入るため、個別NDAを別途巻く意味が薄くなることも多いです。

秘密保持契約自体は、契約締結前の検討段階で秘密情報を開示する場面で一般的に使われる契約です。

一方で、個別NDAをあえて求めるクライアントもいます。

その理由は、便利さではなく、拘束範囲を狭く、明確にしたいからです。

この記事では、この実務感を前提に、包括的NDAと個別NDAの使い分けを整理します。

目次

結論

M&A実務で言えば、基本的には包括的NDAの方が圧倒的に使い勝手は良いです。

理由は、案件ごとに個別NDAを巻くと手間がかかり、スピード感が落ちるからです。中小M&Aガイドラインでも、秘密保持契約書は中小M&Aで典型的に用いられる契約書の一つとして整理されています。

実務の流れとして理屈上は、

包括的NDA → 個別NDA → M&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書

もあり得ます。

ただ、実際に多いのは、

包括的NDA → M&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書

です。

なぜなら、M&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書の中にも通常は秘密保持条項が入っており、個別NDAを別途巻くと内容が重なりやすいからです。中小M&Aガイドラインでは、仲介契約・FA契約が典型的な契約書として整理されており、各契約書の内容は案件に応じて見直すことが想定されています。

もっとも、個別NDAを巻く意味がないわけではありません。

個別NDAは、主としてクライアント側にメリットがあります。

特に、急いでいないクライアントにとっては、個別NDAの方がメリットが大きいです。

なぜなら、包括的NDAだと、候補先リストを数百社渡され、その全てが直接交渉禁止の対象になるような事態が起こり得るからです。

逆に、急いでいるクライアントは、手間を嫌い、しかも基本的に情報を受け取る側で情報漏洩リスクが比較的小さいため、包括的NDAを好みやすいです。中小M&AガイドラインQ&Aでも、直接交渉制限は候補先や目的を限定すべきと整理されています。

まず実務で多い流れは何か

形式上あり得る流れ

形式上は、M&A実務の流れは次のように考えられます。

包括的NDA → 個別NDA → M&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書

この流れであれば、

  • 最初に包括で大枠の守秘義務をかける
  • 具体案件に入る段階で個別NDAで案件特定する
  • 最後に正式契約で守秘義務も含めて整理する

という意味で、理屈はきれいです。基本契約と個別契約の一般論でも、基本契約は継続的取引の共通ルールを定め、個別契約は個々の取引条件を定めるものと整理されています。

実務で多い流れ

ただ、実務ではこの流れはやや重いです。

案件ごとに個別NDAを巻くと、その都度ドラフト、修正、確認、締結が必要になり、スピード感が落ちます。

そのため、実務で多いのは次の流れです。

包括的NDA → M&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書

これなら、初期接触から案件紹介までは包括で回し、正式受任後は業務委託契約書の中の秘密保持条項で処理できます。

個別NDAを省略しても、正式契約の中に秘密保持条項が入っていれば、実務上はそこまで大きな支障が出ないことが多いです。中小M&Aガイドラインでも、仲介契約・FA契約は典型的な契約書として整理されています。

なぜ実務では包括的NDAの方が使いやすいのか

「対象範囲」「スピード」「明確性」「揉めやすい点」を比較する図。

案件紹介のスピードが落ちないから

包括的NDAの最大の強みはここです。

同じ買手候補や同じ専門会社と継続的にやり取りするなら、毎回個別NDAを巻くのは単純に重いです。

特に初期段階では、ノンネーム、簡易概要、候補先リスト、初回打診など、軽い情報の往復が多いため、包括で入口を作っておく方が案件を回しやすいです。秘密保持契約は、契約締結前の検討段階で秘密情報を開示する場面でよく使われます。

契約実務の負担が軽いから

個別NDAを巻くと、毎回ほぼ同じ修正論点が出ます。

たとえば、

  • 開示可能先
  • 準拠法
  • 損害賠償
  • 返還・廃棄
  • 直接交渉禁止
  • 有効期間

などです。

これを案件ごとにやると、契約実務の負担が大きくなります。

包括的NDAで共通ルールを先に決めておけば、この負担をかなり減らせます。基本契約の機能としても、継続的なやり取りに共通ルールを与える点が重視されます。

正式契約で秘密保持条項が重なるから

M&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書の中には、通常、秘密保持条項が入っています。

そのため、個別NDAを別途締結しても、後の正式契約と内容が重なりやすいです。

もちろん、案件ごとの特別な制約を個別NDAで先に切る意味はありますが、一般的な守秘義務の重複という観点では、包括だけで足りることも多いです。中小M&Aガイドラインでも、契約書は案件実態に応じて見直すことが想定されています。

では、なぜ個別NDAを巻くのか

実務では、包括的NDAの方が使い勝手は良く、案件も回しやすいです。

それでも個別NDAを巻くのは、主としてクライアント側にメリットがあるからです。

急いでいないクライアントは、個別NDAの方がメリットが大きい

基本的に、急いでいないクライアントであれば、個別NDAの方がメリットが大きいです。

理由は、個別NDAの方が拘束範囲を狭く、明確にできるからです。

包括的NDAでは、候補先リストを数百社渡され、その全てが直接交渉禁止の対象になるような事態も起こり得ます。

そのため、スピードよりも、広すぎる拘束を避けたいクライアントは、個別NDAを好みやすいです。中小M&AガイドラインQ&Aでも、直接交渉制限の候補先は無限定にせず、専門業者が関与・接触し紹介した候補先に限定すべきとされています。

急いでいるクライアントは、包括的NDAを好みやすい

一方で、急いでいるクライアントは包括的NDAを好みやすいです。

個別NDAは案件ごとに締結や修正が必要で、どうしても手間がかかるからです。

また、クライアントは基本的に情報を受け取る側であることが多く、情報漏洩リスクも相対的には低いため、拘束範囲の厳密さよりも、まず案件を早く進めることを優先して包括的NDAを受け入れることがあります。秘密保持契約は本来的には情報流出防止と目的外利用禁止を中核とする契約ですが、受領側にとってはスピード優先の判断が働きやすい場面があります。

要するに、クライアント側の選好は「スピード」か「拘束範囲の明確さ」かで分かれる

したがって、クライアント側の選好はかなり明快です。

急いでいるクライアント
→ 包括的NDAを好みやすい
→ 手間を減らせる
→ 基本的に情報を受け取る側なので、相対的にリスクを許容しやすい

急いでいないクライアント
→ 個別NDAを好みやすい
→ 広すぎる拘束、特に大量リストによる直接交渉禁止の広がりを避けやすい

包括的NDAと個別NDAのメリット・デメリットを
立場別に整理する

クライアント側とM&A専門会社側それぞれについて、包括・個別の利点と弱点を整理する図。

クライアント側から見た包括的NDA

メリット

  • 同じ相手と複数案件を検討しやすい
  • 毎回NDAを巻かずに済む
  • 初期打診のスピードが落ちにくい

デメリット

  • どの案件まで拘束されるのか曖昧になりやすい
  • 直接交渉禁止や目的外利用禁止の適用範囲が広がりやすい
  • 候補先や対象会社の認識ズレで揉めやすい

クライアント側から見た個別NDA

メリット

  • 対象案件が明確
  • 開示目的や禁止事項を案件ごとに切りやすい
  • 広く拘束されるリスクを抑えやすい
  • 直接交渉禁止などの実務的リスクを限定しやすい

デメリット

  • 案件ごとに締結が必要で手間がかかる
  • 初期接触のスピードが落ちやすい
  • 同じ修正交渉を何度も繰り返しやすい

M&A専門会社側から見た包括的NDA

メリット

  • 案件提案を継続的にしやすい
  • 初期段階の提案スピードを上げやすい
  • 毎回の契約実務を軽くできる
  • その後の正式契約にスムーズにつなげやすい

デメリット

  • どの案件が拘束対象か曖昧になりやすい
  • 「その案件は対象外だった」と言われやすい
  • 直接交渉禁止や成功報酬の関係で認識ズレが起きやすい

M&A専門会社側から見た個別NDA

メリット

  • どの案件を紹介したか明確にしやすい
  • 候補先や対象会社を特定しやすい
  • 直接交渉禁止や成約管理の範囲を切りやすい

デメリット

  • 正式契約と内容が重複しやすい
  • 案件ごとに契約対応が必要
  • 提案スピードが落ちやすい
  • 初期段階の幅広い探索にはやや不向き

実務で一番多いのは、結局どういう使い分けか

「急ぐ案件か」「拘束範囲を絞りたいか」「クライアントが包括を嫌がるか」で分岐する図。

基本は、包括的NDAを先に巻いて案件を回す

実務で最も多いのは、まず包括的NDAを巻いて案件探索を回す形です。

初期接触や継続的案件提案の場面では、この方が圧倒的に使いやすいです。

個別NDAは、クライアントの要請が強いときに使う

個別NDAは、実務上ゼロではありません。

ただ、専門会社側から積極的に選ぶというより、クライアント側の要請や警戒感が強いときに使うことが多いです。

特に買手側で、包括的拘束や直接交渉禁止の広がりを嫌う場合に、個別NDAが使われやすいです。

ハイブリッド運用もある

もちろん、

包括的NDA → 個別NDA → M&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書

という流れが必要な案件もあります。

特定案件の機密性が高い、クライアントの警戒感が強い、直接交渉禁止などの条項を案件ごとに厳密に切りたい、という場合です。

ただし、これは理屈としてはきれいでも、実務上はやや重い流れです。

そのため、常態化するより、必要な案件でだけ使う例外的な流れと考えた方が実務感に合います。

実務で揉めやすい典型例

たとえば、買手候補が仲介会社と包括的NDAを締結しており、複数案件の紹介を受けていたとします。

その後、ある案件について社名入りの詳細資料が提示されましたが、買手候補としては「まだ具体案件として正式に受領した認識ではない」と考えていました。

一方、仲介会社側は「包括的NDAの対象案件として既に入っており、直接交渉禁止や目的外利用禁止も当然に及ぶ」と理解していました。

このように、包括型は便利な反面、いつ、どの案件が拘束対象に入ったかで認識がずれると揉めやすいです。

この問題は、個別NDAを巻かない場合でも、案件特定メールや個別確認書を入れるだけでかなり防げます。

まとめ

M&A実務で言えば、圧倒的に包括的NDAの方が使い勝手は良いです。

案件探索のスピードを落とさず、その後のM&A仲介又はアドバイザリー業務委託契約書にも自然につなげやすいからです。

一方で、個別NDAを巻く意味がないわけではありません。

個別NDAは主としてクライアント側にメリットがあり、特に包括的な拘束や直接交渉禁止の広がりを避けたいクライアント、そして急いでいないクライアントにとって有効です。

要するに、このテーマで本当に重要なのは、包括か個別かの名前ではありません。

誰にとって、どの場面で、どのリスクを下げたいのかです。

実務では、まず包括で回し、必要に応じて個別を使う。この順番で考えるのが一番自然です。

なお、実務上は、M&Aアドバイザーの視点では、絶対的に包括的NDAの方が利便性は高いです。

一方で、教科書的なM&A実務の基本としては、本来は個別的なNDAの方が原則に近いともいえます。

個別NDAは、手間がかかり、スピードが落ちるという明確なデメリットはありますが、その点を除けば、情報漏洩の防止、情報の管理、対象案件や利用目的の明確化といった、本来のNDAの役割にはより忠実です。

したがって、実務では包括的NDAが優勢であっても、契約の原理原則としては、個別NDAの方がより素直な設計である、という視点は持っておいた方がよいです。

参考情報

執筆者

杉谷 健悟

政府系金融機関を退職後、日系コンサルティングファームにて、財務DD、中期経営計画策定、資金繰り精査、金融機関との調整、M&A支援など、多数の事業再生プロジェクトを担当。事業会社では経営企画部に所属し、不動産、M&A、コンサルティング事業の立ち上げを推進した後、M&Aギルド株式会社を創業。
主な実績として、ガソリンスタンド破産案件におけるセルサイドFA、IPO準備企業における第三者割当増資案件(セルサイドFA)、美容医療クリニックの撤退(事業譲渡)案件におけるセルサイドFA等に従事。
現在はM&Aギルド株式会社代表取締役として、M&A仲介・アドバイザリー業務を行うほか、事業再生、資本政策、企業価値向上に関する支援を行っている。

監修者

藤本 光(公認会計士)

公認会計士。Big4監査法人、FAS、PEファンド、上場会社CFOを通じて、会計監査、M&Aアドバイザリー、投資実行、資本政策・IR/開示まで幅広い業務に従事。
主な実績として、監査、財務DD、財務モデリング、投資ストラクチャーの検討、エクイティファイナンス、IFRS導入等に従事し、M&A・資本政策・投資判断に関する実務経験を有する。
現在はM&Aギルド株式会社CFOとして経営管理を統括するほか、公認会計士の立場から、企業価値および株主価値に関わる重要テーマについて実務の観点から監修を行っている。

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