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差し入れ型と双方締結型のNDAはどちらを使うべきか|M&Aでの使い分けを実務で解説

この記事は、売主、買主、M&Aアドバイザーの3者を主な読者として、M&Aで使うNDAのうち、差し入れ型と双方締結型をどう使い分けるべきかを整理するものです。

M&A実務でNDAを作るとき、この論点は単なる書式の違いではありません。

どちらを選ぶかで、誰が何を約束するのか、誰がどこまでリスクを負うのかが変わります。

そのため、まずは誰が誰の情報を取るのかを整理し、そのうえで差し入れ型か双方締結型かを選ぶのが実務的です。

目次

結論

差し入れ型と双方締結型の違いは、誰がどこまで秘密保持義務を負うかです。

実務では、一方向の情報取得なら差し入れ型、双方が情報を出し合うなら双方締結型と考えるのが基本です。

また、差し入れ型が実務でよく使われる理由は、主に次の3つです。

スピードが速いこと、法務チェックを通しにくい場面があること、無駄な内容を約束しないで済むことです。

つまり、差し入れ型は単なる片務・双務の違いではなく、M&A実務の現場で回しやすい形式として使われています。

まず整理したいのは、差し入れ型NDAの3類型

差し入れ型NDAというと、つい「買手が売手に差し入れるもの」というイメージで語られがちですが、実務ではそれだけではありません。

差し入れ型は、少なくとも次の3つに分けた方が分かりやすいです。

差し入れ型NDAの3類型を図解でまとめた画像

1. M&A会社から売主又は買主に差し入れ

これは、M&A会社が一方的に売主または買主から情報を取得する際に使われます。

たとえば、仲介会社やFAが売主候補から案件情報を取得する、あるいは買主候補から買収ニーズや投資方針などの情報を取得する場面です。

この場合、情報を出すのは売主又は買主であり、M&A会社が受け取る側です。

したがって、M&A会社だけに秘密保持義務を負わせる差し入れ型が、形式としては自然です。

2. 売主又は買主からM&A会社に差し入れ

これは、M&A会社が保有する売主または買主の情報を取得する際に使われます。

たとえば、M&A会社が保有している案件情報や候補先情報を、売主や買主が受け取る場面です。

この場合は逆に、情報を保有しているのはM&A会社であり、受け取るのは売主又は買主です。

したがって、売主又は買主の側からM&A会社に対して誓約する差し入れ型が使われます。

3. 買手から売手、もしくは売手から買手へ差し入れ

これは、当事者間で一方向的に情報を取得する際に使われます。

たとえば、

  • 買手が売手の情報をもとに買収を検討する場面
  • 売手がこの買手でよいかを検討するために、買手の情報を受け取る場面

です。

この場合も、必ずしも双方締結型にしなければならないわけではありません。

実態として一方向の情報取得であれば、差し入れ型の方が素直なこともあります。

差し入れ型と双方締結型の違いは何か

差し入れ型と双方締結型の二つの違いを表でまとめた画像

差し入れ型は、必要な側だけが義務を負う形式

差し入れ型の本質は、受領者だけに必要な義務を負わせることです。

秘密保持義務、目的外利用禁止、第三者開示制限、返還・廃棄など、情報を受け取る側に必要な義務だけを課しやすいです。

この意味で、差し入れ型は、契約実務の原則である

「無駄な内容を約束しない」

に沿いやすい形式です。

双方締結型は、双方が義務を負う形式

双方締結型は、双方が契約当事者となり、双方に秘密保持義務や目的外利用禁止などを課す形式です。

この形式は、双方が情報を出し合う場合や、義務を対称的に整理したい場合に向いています。

実務で差し入れ型が使われる主な理由

実務で差し入れ型が使われる理由は、主に3つです。

1. スピードが速いから

ひとつ目は、スピードです。

双方締結型だと、通常は両社の稟議や法務確認を通す必要があります。

一方、差し入れ型であれば、差し入れられる側の法務チェックのみで進めやすく、
実務では差し入れる側が自ら差し入れてくる形で進むこともあります。

M&Aでは初期対応のスピードが重要なことが多いため、この差は大きいです。

2. 法務チェックを通しにくい場面があるから

ふたつ目は、法務チェックができないケースがあるからです。

M&Aは極秘で進められることがあり、法務部の人間に知られたくないという事情があります。

特に、売主が対象会社そのものである場合は、この事情が強く出やすいです。

そのため、厳密には双方締結型の方が整っていても、実務上は差し入れ型が選ばれることがあります。

3. 無駄な内容を約束しないため

三つ目は、無駄な内容を約束しないためです。

NDAは、本来、秘密情報の漏洩防止や管理を取り決めるためのものです。

そうであれば、情報を受け取る側にこそ義務が発生します。

情報を受け取らない側まで広く義務を負わせる必要がないなら、無駄な契約を避けるのが通常です。

この意味で、差し入れ型は、NDAの本来の役割にかなり忠実です。

では、なぜ双方締結型を使うのか

双方が情報を出すなら、双方締結型の方が自然だから

M&Aでは、実際には双方が情報を出し合う場面があります。

売主が企業情報を開示し、買主も資金調達方針、スポンサー情報、ストラクチャー案などを出すことがあります。

この場合、片方だけに義務を負わせるのは不均衡です。

義務を対称的に整理したいから

秘密保持だけでなく、

  • 目的外利用禁止
  • 返還・廃棄
  • 開示可能先
  • 交渉ルール

などを双方に対称的に置きたい場合は、双方締結型の方が整理しやすいです。

売主、買主、M&Aアドバイザーの3視点でどう考えるか

初期接触→案件情報の開示→トップ面談・具体検討→条件交渉の順番で一方向の情報交換から双方向の情報交換の流れを表でまとめた画像

売主の視点

売主としては、基本的には差し入れ型の方が使いやすいことが多いです。

自分が情報を出す側であり、相手にだけ守秘義務を負わせれば足りる場面が多いからです。

特に初期段階では、買手候補やM&A会社にだけ義務を負わせれば十分なことが多いです。

一方で、買手側からも重要な情報提供を受ける場合や、対称的な義務設定を望むなら、双方締結型の方が自然です。

買主の視点

買主は、初期段階では差し入れ型を使うことに合理性があります。

理由は、この段階では主として売主やM&A会社の情報を受け取って検討する立場だからです。

つまり、買主としては、まず自分が受け取る情報について秘密保持義務を負えば足りる場面が多く、わざわざ双方締結型にして義務を広げる必要は必ずしもありません。

一方で、買主が自社の資金調達方針、投資ストラクチャー、スポンサー情報なども開示する段階に入ると、差し入れ型よりも双方締結型の方がバランスを取りやすくなります。

M&Aアドバイザーの視点

M&Aアドバイザーから見ると、重要なのは形式そのものより、誰が何を出すのかです。

初期段階では差し入れ型の方が軽くて動かしやすいです。

一方、深い交渉フェーズでは双方締結型の方が整合的になる場面があります。

要するに、アドバイザー実務では、

一方向の情報取得なら差し入れ型、双方の情報交換なら双方締結型

という整理が分かりやすいです。

差し入れ型のメリット・デメリット

メリット

  • 必要な側だけに義務を負わせやすい
  • 不要な義務を広げにくい
  • スピードが速い
  • 法務チェックを通しにくい場面でも使いやすい
  • 契約実務の原則に沿いやすい

デメリット

  • 対称的な交渉ルールは置きにくい
  • 双方が情報を出す場面では不均衡になりやすい
  • 相手方が一方的だと感じることがある

双方締結型のメリット・デメリット

メリット

  • 双方が情報を出す場面で自然
  • 義務のバランスを取りやすい
  • 交渉ルールを対称的に設計しやすい

デメリット

  • 初期段階では過剰になることがある
  • 不要な義務まで広がりやすい
  • 差し入れ型より重い
  • 両社の確認や稟議が必要になりやすい

実務でどう使い分けるべきか

初期接触では差し入れ型が使いやすい

ノンネーム、簡易概要、IM受領前後など、主として一方向の情報取得が行われる場面では、差し入れ型の方が使いやすいです。

必要最小限の義務だけを負わせやすく、スピードも落ちにくいです。

双方が深く情報交換する段階では双方締結型が向く

トップ面談後や、ストラクチャー、資金調達、具体条件の検討が進み、双方が情報を出し始める段階では、双方締結型の方が自然です。

この段階では、対称的な秘密保持の方が整合的です。

実務で揉めやすい典型例

たとえば、売主側は「こちらが情報を出すだけだから差し入れ型で十分」と考えていたのに、買主側は「自社の投資方針や資金調達方針も出すので双方締結型でないとバランスが悪い」と考えることがあります。

このズレは、単なる形式論ではなく、誰が何を出す前提なのかのズレです。

また、M&A会社と売主・買主のどちらが差し入れるべきかでも認識がずれることがあります。

このときは、書式の好みで決めるのではなく、どちらが情報を出し、どちらが取得するのかから整理した方がよいです。

まとめ

差し入れ型と双方締結型の違いは、要するに、誰がどこまで約束するかの違いです。

そして、差し入れ型は一つではなく、

  • M&A会社から売主又は買主に差し入れ
  • 売主又は買主からM&A会社に差し入れ
  • 買手から売手、もしくは売手から買手へ差し入れ

という整理で見ると、実務上かなり分かりやすくなります。

実務で差し入れ型がよく使われる理由は、

スピードが速いこと、法務チェックを通しにくい場面があること、無駄な内容を約束しないで済むこと

の3つです。

したがって、M&A実務では、

誰が誰の情報を取得するのかを先に整理し、その実態に合わせて差し入れ型か双方締結型かを選ぶ

という考え方が一番実務的です。

執筆者

杉谷 健悟

政府系金融機関を退職後、日系コンサルティングファームにて、財務DD、中期経営計画策定、資金繰り精査、金融機関との調整、M&A支援など、多数の事業再生プロジェクトを担当。事業会社では経営企画部に所属し、不動産、M&A、コンサルティング事業の立ち上げを推進した後、M&Aギルド株式会社を創業。
主な実績として、ガソリンスタンド破産案件におけるセルサイドFA、IPO準備企業における第三者割当増資案件(セルサイドFA)、美容医療クリニックの撤退(事業譲渡)案件におけるセルサイドFA等に従事。
現在はM&Aギルド株式会社代表取締役として、M&A仲介・アドバイザリー業務を行うほか、事業再生、資本政策、企業価値向上に関する支援を行っている。

監修者

藤本 光(公認会計士)

公認会計士。Big4監査法人、FAS、PEファンド、上場会社CFOを通じて、会計監査、M&Aアドバイザリー、投資実行、資本政策・IR/開示まで幅広い業務に従事。
主な実績として、監査、財務DD、財務モデリング、投資ストラクチャーの検討、エクイティファイナンス、IFRS導入等に従事し、M&A・資本政策・投資判断に関する実務経験を有する。
現在はM&Aギルド株式会社CFOとして経営管理を統括するほか、公認会計士の立場から、企業価値および株主価値に関わる重要テーマについて実務の観点から監修を行っている。

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