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MBOや支配株主による完全子会社化の開示を見ると、「株式価値算定書を取得した」「フェアネス・オピニオンを取得した」という記載が出てきます。ここで多くの投資家が混同しやすいのが、株式価値算定書とフェアネス・オピニオンは同じではないという点です。EYの記事は、フェアネス・オピニオンを、取引価格の公正性担保および説明責任の観点から有用な手段となり得るものとし、株式価値算定よりも、より直接的で重要性の高い情報を提供すると整理しています。
一方で、フェアネス・オピニオンという言葉には、いかにも「第三者が公正と認めた」という印象があります。しかし実際には、そこまで広い意味はありません。財務的見地からみた公正性についての意見であって、法的妥当性や手続全体の公正性、あるいは株主にとって最善の価格かどうかまで保証するものではありません。
この記事では、フェアネス・オピニオンとは何かを、必要性、株式価値算定書との違い、どんな場面で使われるか、限界、投資家が誤解しやすい点という順で整理します。
フェアネス・オピニオンとは、財務に関する専門性を有する第三者算定機関が、合意された取引価格や比率の公正性について、財務的見地から意見を表明するものです。MBOや支配株主による従属会社の買収など、構造的な利益相反が強い取引で特に問題になります。EYの記事も、フェアネス・オピニオンは取引価格の公正性担保および説明責任の観点から有用な手段となり得ると整理しており、2019年の公正M&A指針も、株式価値算定書よりも取引条件の妥当性に関する、より直接的で重要性の高い参考情報となり得るとしています。
ただし、フェアネス・オピニオンは**「この価格が最も高い」「この取引は絶対に正しい」「少数株主に不利益がない」と保証するものではありません。
** あくまで、一定の前提条件と資料に基づき、財務的見地から公正といえるかを示す意見です。公正M&A指針でも、フェアネス・オピニオンは公正性担保措置として有効に活用し得る一方、それだけで常に十分とはならず、他の公正性担保措置と組み合わせて見るべきだとされています。
そのため、投資家が本当に見るべきなのは、フェアネス・オピニオンが付いているかどうかではなく、誰が出したのか、どの前提で出したのか、利益相反がないか、特別委員会や価格交渉にどう組み込まれているかです。日本では、フェアネス・オピニオンの発行に関する規制が存在するわけではなく、法的な位置付けも必ずしも明確ではないため、その有用性は第三者算定機関の信頼性によって支えられているとEYは指摘しています。形式的に取得されていても、発行主体の独立性や発行プロセスが弱ければ、過信は危険です。
フェアネス・オピニオンは、一般に、合意された取引価格や比率が財務的見地から公正かどうかについて意見を述べるものです。EYの記事は、第三者算定機関自身が意見形成主体となること、合意された取引価格や比率自体を意見の対象とすること、特定の主体にとっての公正性を判断することを、その特徴として挙げています。
この点で、単に企業価値や株式価値を算定する株式価値算定書とは役割が異なります。株式価値算定書は、DCF法、類似会社比較法、純資産法などにより一定のレンジや評価額を示すものですが、フェアネス・オピニオンは、その取引条件が財務的見地からみて公正といえるかという評価を示す点に特徴があります。公正M&A指針も、フェアネス・オピニオンは株式価値算定書よりも取引条件の妥当性に関する直接的な参考情報となり得るとしています。
ここで大事なのは、フェアネス・オピニオンは価格そのものを決めるものではないということです。実際の価格交渉は、対象会社、買付者、特別委員会、ファイナンシャル・アドバイザーなどがやり取りする中で形成されます。フェアネス・オピニオンは、その後段で、形成された条件を財務的観点から評価する役割を持つことが多いです。これはEYの記事がいう「合意された取引価格や比率」を対象にするという整理とも整合します。
フェアネス・オピニオンが問題になるのは、主に構造的な利益相反がある取引と、株主等の利害関係者に重要な影響を与える可能性のある取引です。EYの記事は、こうした場面で、取引価格の公正性を担保するとともに、株主等への説明責任を果たす必要があると整理しています。
その典型例が、MBOや支配株主による従属会社の買収です。こうした取引では、買い手側は価格を抑えたい一方、少数株主はできるだけ高い価格を望みます。対象会社の取締役会も、経営陣や支配株主との関係から、少数株主利益と完全には一致しない判断をしやすくなります。公正M&A指針も、こうした構造的利益相反と情報の非対称性がある場面で、公正性担保措置が重要になると整理しています。
その中で、フェアネス・オピニオンは、価格や対価について財務的見地からの説明責任を補強する資料として意味を持ちます。EYの記事は、欧米ではこのような取引でフェアネス・オピニオンを取得することが一般的なプラクティスとなっているという公正M&A指針の指摘も踏まえ、海外株主への説明の観点からも有用だと述べています。
最も誤解が多いのは、株式価値算定書とフェアネス・オピニオンを同じものと考えてしまうことです。違いはかなり明確です。

つまり、算定書は価格レンジや価値の参考情報であり、フェアネス・オピニオンはその取引条件が公正といえるかについての意見です。EYの記事も、前者と異なり後者は第三者算定機関自身が意見形成主体であることを明確にしています。
ただし、ここも注意が必要です。フェアネス・オピニオンは、算定書や事業計画などの前提を使って出されることが多いため、前提が弱ければ意見も弱くなるという限界があります。数字が付いているから客観的、と短絡すべきではありません。

最も典型的なのは、MBOです。
日本取引所グループのMBO開示様式例でも、MBOの公開買付価格が株主にとって財務的見地から公正である旨の評価、すなわちフェアネス・オピニオンを取得している場合の記載例が示されています。これは、MBOで価格の公正性が特に問題になりやすいことを示しています。
次に多いのが、支配株主による完全子会社化や親子上場会社間の重要取引です。
EYの記事は、日本取引所グループの集計を踏まえ、2019年7月から2021年6月までに公表されたMBOおよび支配株主による従属会社の買収での取得状況を紹介し、取得割合は全体の3分の1に満たないが、2019年指針公表前と比べて大きく増加したとしています。
また、EYの記事は、支配株主による従属会社買収のうち規模の大きい案件では、買収者側でもフェアネス・オピニオンが取得されている事例があると指摘しています。
買収対象会社側が取得するものは一般株主にとっての公正性を示すのが一般的である一方、買収者側が取得するものは買収者または買収者の株主にとっての公正性を示すもので、公正M&A指針が想定する少数株主保護措置とは位置付けが異なります。
ここが最も大事です。フェアネス・オピニオンには、少なくとも4つの限界があります。
フェアネス・オピニオンは、通常、財務的見地からの公正性についての意見です。
したがって、法的妥当性、手続全体の適法性、ガバナンス上の適切性、少数株主にとって最善の条件かどうかまで保証するものではありません。投資家が「第三者が公正と認めた」と広く受け取りすぎると誤解になります。
フェアネス・オピニオンは、事業計画、算定前提、市場環境、比較対象など、さまざまな前提条件に基づいて出されます。したがって、前提が楽観的すぎたり、情報が不十分だったりすれば、意見自体の説得力も落ちます。フェアネス・オピニオンだけ切り取って見ても不十分で、何を前提にしているかまで見る必要があります。
フェアネス・オピニオンがあっても、価格交渉が十分に行われたとは限りません。
実際には、初期段階である程度の価格レンジや落としどころが意識され、その後で算定書やフェアネス・オピニオンがそれを理論的に補強するように見える案件もあります。公正M&A指針が重視しているのは、まさに数字そのものより、一般株主の利益を反映させる交渉や条件形成の過程です。
EYの記事が特に強調しているのはここです。日本では、フェアネス・オピニオンの発行に関する規制が存在するわけではなく、法的な位置付けも必ずしも明確ではないため、その有用性はこれを発行する第三者算定機関の信頼性によって支えられているとされています。そのため、第三者算定機関の選定では、独立性・中立性、慎重な発行プロセス、十分な専門性などを見る必要があります。グループ会社が買収者に対して買収資金の提供を行うような場合には独立性に疑義が生じ得るため、別の第三者算定機関を選任する事例もあるとEYは紹介しています。
これは典型的な誤解です。フェアネス・オピニオンは、その価格が最も高いとか、もっと高くできなかったわけではないという意味ではありません。あくまで一定の前提のもとで、財務的見地から公正といえるかを示す意見です。
特別委員会、外部算定、マーケットチェック、情報開示など、他の公正性担保措置が弱ければ、フェアネス・オピニオンだけでは不十分です。公正M&A指針が重視するのも、フェアネス・オピニオン単独ではなく、取引全体の公正性担保措置の組み合わせです。
これは非常に多いです。「評価書が出ているからフェアネス・オピニオンもあるだろう」と考えるのは危険です。役割が違うからです。開示では、株式価値算定書を取得したのか、フェアネス・オピニオンも取得したのかを分けて見るべきです。日本取引所グループの様式例でも、フェアネス・オピニオンは別の取得事項として扱われています。
フェアネス・オピニオンについて株主・投資家が見るべきポイントは、次のとおりです。
まず確認すべきなのは、誰が意見を出しているのかです。対象会社のFAか、特別委員会が独自に起用したアドバイザーかで意味合いは変わります。誰のために、どの立場で出しているのかを見る必要があります。
次に大事なのは、前提条件です。事業計画が強気すぎないか、比較対象が不自然でないか、前提の更新時点はいつかを見ないと、意見の重みは測れません。
EYの記事が強調するように、日本では発行主体の信頼性が特に大事です。したがって、独立性・中立性に疑義がないか、慎重なレビュー体制があるかも見るべきです。第三者算定機関が所属するグループが買収資金を提供しているような場合は、特に注意が必要です。
フェアネス・オピニオン単独で見るのではなく、特別委員会がどう使ったのか、価格交渉にどう反映されたのかを見るべきです。委員会が初期から関与し、再交渉や対抗案検討まで踏み込んでいるなら、意味は大きくなります。逆に、最後に添付された程度なら過信は危険です。
フェアネス・オピニオンとは、財務に関する専門性を有する第三者算定機関が、合意された取引価格や比率の公正性について、財務的見地から意見を表明するものです。MBOや支配株主取引のように利益相反が強い場面で、価格や条件の説明責任を補強する資料として使われることがあります。EYの記事も、株式価値算定よりも直接的で重要性の高い情報を提供し得ると整理しています。
ただし、フェアネス・オピニオンは万能ではありません。最も高い価格の保証でもなく、取引全体の公正性の保証でもなく、少数株主保護が十分であることの証明でもありません。
本当に見るべきなのは、誰が出したのか、どの前提で出したのか、独立性に問題がないか、特別委員会や価格交渉にどう組み込まれたのかです。
投資家は「フェアネス・オピニオンがあるから安心」と考えるのではなく、その意見がどこまで実質を伴っているかで判断すべきです。