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一般に敵対的買収と呼ばれるのは、対象会社の取締役会の賛同を得ずに行われる買収です。
対象会社が意見表明で反対を示す場面が典型ですが、反対意見そのものが定義ではありません。少なくとも対象会社が反対している以上、取締役会は、その提案が企業価値ひいては株主共同の利益の確保・向上に資さないと判断していることになります。
もっとも、その判断が本当に正しいかどうかは別問題であり、最終的には株主が判断すべきです。
ここで重要なのは、対象会社が敵対的だと評価し、買収防衛策を講じていること自体は、その買収が悪であることを意味しないという点です。建前としては、対象会社は企業価値向上に資さないと判断して反対しますが、現実には役員の保身、支配権喪失への抵抗感、いわゆる「乗っ取り」への敵意が混ざることもあります。経済産業省の行動指針も、買収への対応方針が保身目的で設計・運用されるおそれや、望ましい買収提案を萎縮させるおそれに注意を促しています。
だからこそ、株主・投資家は会社側の説明をうのみにせず、自分で判断する必要があります。
この記事では、その前提を踏まえて、買収防衛策の意味、種類、導入目的、発動要件、株主が見るべきポイントを整理します。
買収防衛策とは、上場会社が自社に対する買収に備えて定める買収への対応方針や、その方針に基づいて実際に行う対抗措置のことです。単に「買収を止める仕組み」と理解すると不正確です。
経済産業省の「企業買収における行動指針」は、上場会社の支配権取得を巡る買収では、企業価値・株主共同の利益、株主意思、透明性を重視し、十分な情報と時間を前提に株主が判断することを基本としています。買収防衛策も、この前提の中でのみ正当化されます。
したがって、買収防衛策の目的は、あくまで企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させることです。2005年の買収防衛策指針でも、この点が原則として示されています。そのうえで、防衛策が適切に用いられる場合には、株主に必要な情報と時間を確保し、取締役会に交渉力を与え、結果として条件改善につながることがあります。
つまり、条件改善は目的そのものではなく、企業価値・株主利益を守る過程で生じうる機能や効果と捉えるのが正確です。
また、発動要件は法令上の単純なチェックリストで決まるわけではありません。
問われるのは、株主意思に依拠しているか、必要性・相当性があるか、情報と時間の不足や不当な利益目的があるか、独立した立場の者が関与しているかです。とくに株主総会の承認を経ているかどうかは、対抗措置の適法性・合理性を支える重要な事情です。

もともと2005年の経済産業省・法務省の「買収防衛策に関する指針」では、買収防衛策は、経営者にとって好ましくない者による買収が開始される前に導入されるものとして整理されていました。
そして、その原則として、企業価値・株主共同の利益の確保・向上、事前開示・株主意思、必要性・相当性の3原則が示されています。
一方、現在の東京証券取引所のコーポレート・ガバナンス報告書記載要領では、「買収への対応方針(買収防衛策)」は、資金調達などの事業目的を主要な目的とせず、差別的な行使条件・取得条項付きの新株予約権の無償割当て等によって当該上場会社に対する買収に対抗する旨を定めた対応方針と説明されています。つまり、現在の整理では、「買収防衛策」という広い言葉の中に、事前に定めるルールと実際に発動する対抗措置の両方が含まれています。
ここでは、次のように整理すると分かりやすいです。
この整理は、2023年の行動指針の章立てと、東京証券取引所の記載要領の定義に沿った理解です。
買収者は、当然ながら何らかの必要があって対象会社の買収を試みます。その目的が、対象会社の企業価値向上や事業シナジーの実現にある場合もあれば、対象会社や一般株主にとって望ましくない場合もあります。こうした後者の買収であれば、対象会社の取締役会が企業価値ひいては株主共同の利益に資さないと判断し、反対することには一定の合理性があります。行動指針も、対象会社や一般株主の犠牲のもとに買収者が不当な利益を得る目的で支配権取得を図る場合を、問題のある場面として整理しています。
もっとも、問題はそこだけではありません。上場会社では、株主の権利・平等性の確保と、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定がコーポレートガバナンスの基本とされています。言い換えれば、上場会社では、経営陣の判断がそのまま株主利益と同一とは限りません。実質的に創業者やその関係者が強い影響力を持つ会社では、買収防衛策が本来の目的から外れ、経営陣の保身や支配権維持のために使われるリスクがあります。経済産業省の行動指針も、買収への対応方針が保身目的で設計・運用されるおそれに注意を促しています。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードも、買収防衛の効果をもたらす方策について、必要性・合理性、適正手続、十分な説明を求めています。
したがって、対象会社が敵対的買収だと認定し、防衛策を講じていること自体をもって、その買収が悪いと決めつけるべきではありません。株主・投資家は、買収価格、買収後の事業計画、会社単独での成長可能性、会社側説明の具体性、防衛策の必要性・相当性を見比べ、自分で判断する必要があります。これは、行動指針が一貫して株主意思と透明性を重視していることからも自然に導かれる読み方です。
買収防衛策の導入目的は、建前ではなく、法的・実務的にもかなり明確です。企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させることです。2005年指針は、買収防衛策の目的をここに置き、保身目的の防衛策を否定しています。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードも、買収防衛の効果をもたらす方策は経営陣・取締役会の保身を目的とすべきではないとしています。
2023年の行動指針は、この考え方をより現在的に整理しています。同指針は、必要な時間や情報が提供されないまま買収が進むことや、買収者が対象会社や一般株主の犠牲のもとに不当な利益を得る目的で支配権取得を図ることは、企業価値ひいては株主共同の利益を損なう可能性があるとしています。そのため、会社が差別的内容の新株予約権無償割当てなどの対抗措置を用いることがあり得ると整理しています。
さらに重要なのは、行動指針が、防衛策の役割を株主に十分な情報や時間を与え、取締役会に交渉力を持たせることと整理できる点です。結果として買収条件の改善につながることはありますが、それ自体が目的ではありません。あくまで、企業価値・株主共同の利益を守るための過程で生じうる効果です。ここを取り違えると、「条件を上げれば防衛策は正当」という誤読につながります。
買収防衛策と一口に言っても、複数のタイプがあります。ただし、ここは整理が必要です。厳密な意味での買収防衛策と、広い意味での対抗策が混ざりやすいからです。東京証券取引所の現在の定義に最も近いのは、新株予約権無償割当てなどを用いる対応方針です。一方、2005年の買収防衛策指針の系譜では、ライツプラン、黄金株、パックマン・ディフェンスなど、より広い類型も議論されてきました。

ここで押さえたいのは、買収防衛策は一括りに賛成・反対で語るべきではなく、手法ごとに株主利益への影響が違うということです。株主・投資家は、「防衛策」というラベルだけで判断せず、何を守り、何を犠牲にする設計なのかを見る必要があります。
買収防衛策の発動要件は、法律に一つの答えが書いてあるわけではありません。
重要なのは、株主意思に依拠しているか、必要性・相当性があるか、手続が公正かです。2023年の行動指針は、対抗措置の発動は会社の経営支配権に関わるため、株主の合理的な意思に依拠すべきだとし、必要性・相当性の確保も求めています。
最も重要な論点の一つが、株主意思に依拠しているかです。行動指針は、導入段階または発動段階で株主総会の承認を得ることは、株主の合理的意思に依拠していることを示す重要な措置だとしています。裁判例を踏まえても、株主総会決議を経ることで、対抗措置の適法性は相対的に認められやすくなると整理されています。
もっとも、株主総会を通せば自動的に正当化されるわけではありません。取締役会は、対抗措置の必要性や公正性について慎重に検討し、十分に説明する必要があります。コーポレートガバナンス・コードも、適正手続と十分な説明を求めています。
次に重要なのが、必要性・相当性です。行動指針は、対抗措置の発動は、株主平等原則や財産権への配慮、経営陣の保身目的の濫用防止を踏まえ、必要かつ相当な方法によるべきだとしています。2005年指針でも、必要性・相当性確保の原則は買収防衛策の三原則の一つです。
発動理由が広すぎたり曖昧すぎたりすると危険です。とくに「経営陣にとって好ましくない買収者だから」という理由では足りません。対象会社が敵対的だと認定していることは、あくまで対象会社側の評価です。株主・投資家は、その評価が本当に合理的かを、買収価格、買収後の事業計画、情報開示の質、防衛策の必要性で自分で見極める必要があります。
2023年の行動指針は、どのような場面で対抗措置が問題になりやすいかも整理しています。代表的なのは、対象会社や株主に必要な時間や情報が提供されないまま買収が進む場合や、買収者が対象会社や一般株主の犠牲のもとに不当な利益を得る目的で支配権取得を図る場合です。また、強圧的二段階買収、不正確・誤導的な情報開示、買収意図を隠した買付けなども、株主の意思決定を歪める行為として問題視されています。
このため、発動要件を読むときは、単に条文やプラン文言を見るだけでは不十分です。本当に株主判断が歪められているのか、本当に情報と時間が不足しているのかを実質で見る必要があります。
平時導入とは、特定の買収者が現れる前にルールを定めて公表しておく方法です。行動指針は、平時に導入・開示することで、一定以上の株式取得の場合に対抗措置が用いられ得ることについて、買収者や株主の事前の予見可能性が高まるとしています。これは、買収者が適切な手続を選びやすくなるという意味で一定の合理性があります。
一方で、行動指針は、平時に強い防衛策を掲げることで、望ましい買収も含めて潜在的な買収対象から外れ、外部規律が弱まるおそれも指摘しています。つまり、平時導入は安心材料でもありますが、同時に市場の規律を弱める副作用もあります。だからこそ、株主は「防衛策があるから安心」とは考えず、その設計意図を慎重に見るべきです。
有事導入とは、買収者が現れてから、その事案に応じて対応方針や対抗措置を検討する方法です。行動指針は、買収態様が多様である以上、有事局面で具体的事情に応じて判断することが適する場合もあるとしています。さらに、具体的な買収者や買付方法が見えているほうが、株主も判断しやすい面があります。
ただし、有事導入には、事前の予見可能性が低いという弱点があります。そのため、たとえ有事導入であっても、株主の合理的意思に依拠し、説明責任を尽くすことがより重要になります。特に有事局面では、会社側の「敵対的だから対抗する」という説明が、合理的な企業価値判断なのか、それとも保身や感情なのかを見分ける視点が欠かせません。
株主が買収防衛策を評価するとき、見るべきポイントはかなり明確です。

第一に、導入目的が本当に企業価値・株主共同の利益に向いているかです。保身目的を否定するだけでなく、どのようなリスクを想定し、なぜそのルールが必要なのかが説明されているかを見るべきです。東京証券取引所の記載要領でも、導入会社はコーポレート・ガバナンス報告書で導入目的とスキームの概要を記載することが求められています。
第二に、発動要件が広すぎないかです。広すぎる発動要件は、望ましい買収提案まで排除しやすくなります。行動指針も、保身目的で設計・運用された対応方針は、望ましい買収提案を躊躇させ、市場規律を弱めるおそれがあると警告しています。
第三に、株主意思をどう確保するかです。株主総会の承認をどの段階で取るのか、独立社外取締役や特別委員会がどう関与するのか、取締役会がどの程度の説明責任を果たすのかを確認すべきです。これは、発動の適法性・合理性を支える中心論点です。
第四に、株主が公開買付けに応じて株式を手放す権利を不当に妨げていないかです。コーポレートガバナンス・コード補充原則1-5①は、上場会社が公開買付けに直面した場合、取締役会としての考え方を明確に説明すべきであり、株主の売却権を不当に妨げる措置を講じるべきではないとしています。防衛策が合理的に見えるかどうかは、ここでかなり差が出ます。
第五に、会社の「敵対的」という評価をそのまま信じないことです。対象会社が買収を敵対的だと位置づけ、防衛策を講じていること自体は、あくまで対象会社側の評価です。その評価が本当に合理的かどうかは、株主・投資家が自分で見る必要があります。買収価格、買収後の事業計画、対象会社単独での成長可能性、会社側説明の具体性、防衛策の必要性・相当性を比較してはじめて判断できます。この視点を欠くと、会社側の言い分に流されやすくなります。
買収防衛策とは、単に買収を拒否する仕組みではありません。
目的は、企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させることです。その過程で、株主に十分な情報と時間を与え、取締役会に交渉力を持たせる機能を持ち、結果として条件改善につながることはありますが、それ自体が目的ではありません。2005年指針は企業価値・株主共同の利益、事前開示・株主意思、必要性・相当性の3原則を示し、2023年の行動指針はこれを現在の上場会社の買収実務に合わせて「買収への対応方針・対抗措置」として整理し直しています。
したがって、株主が本当に見るべきなのは、防衛策があるかないかではありません。
なぜ導入するのか、いつ発動するのか、その判断は誰がするのか、売却機会を不当に奪っていないか、会社の反対理由は本当に合理的かです。
ここが曖昧な防衛策は、企業価値のための仕組みではなく、経営陣の保身装置に近づきます。逆に、株主意思と透明性が確保され、必要性・相当性が説明されているなら、防衛策は一定の合理性を持ち得ます。最終的には、会社が敵対的とラベル付けしているかどうかではなく、株主・投資家が自分で判断することが重要です。